ちょっとだけ怖い話 ~誘拐?~
久しぶりに実家に帰省した。こんなご時世だからなかなか帰ってこれなかったんだ。
家に着くと母が出迎えてくれた。父は十数年前に他界していたので、母一人で住んでいる。
彼女も寂しかったのか数年ぶりの息子の顔を見て、心なしか楽し気に見えた。
夕食時、親子の会話も弾んでいた時、母がこんな話を始めた。
「あんた幼稚園に上がる前、遊んでいたと思ったら、突然いなくなっちゃったことあるの。
覚えてる?」
何を言ってんだと頭の中で思った瞬間、心がざわつきだした。そう、思い出したんだ。
確かにそんなことがあったことを。
その頃、僕は近所の朴くんという韓国人の男の子とよく遊んでいた。
僕の住んでいたところは昔、米軍の基地があり、そこに勤めている外国人、沖縄出身の人たちがたくさん住んでいたんだ。
朴くんのお父さんもその関係の仕事をしていたようだ。
ある日二人で遊んでいると、彼が誰か僕の知らない男の人としゃべっていた。
僕は少し離れたところでそれをなんとなく見ていた。
彼は何かをその人から貰ったようで、それを手にしながら、駆け寄ってきた。
今川焼だった。差し出したそれをなにも考えず、手にし、食べたと思う。
その後ろからその男の人も近づいてきた。おじさんに感じたが、もしかしたら、もっと若い人だったかもしれない。その人はニコニコしながら僕に話しかけてきたんだ。
「ぼく、なまえは?」
僕は何も答えなかったと思う。人見知りが激しい子だったから。
「俺とこれからみんなであそびにいかないか?」
朴くんを見るとノリノリの感じだった。僕は正直どっちでもよかったが面白そうという気持ちが強かったのかもしれない。結局、その人の車に乗ってしまった。その頃は全くそういったことに対して危機感がなかったんだね。すごく反省しているよ。
で、地元の繁華街にあるデパートの屋上の小さな遊園地みたいなところで遊んでいた。
しばらく遊んでいて、気が付くとその男の人が別の男の人と話しているのが目に入った。
その人はたぶん、もっと年上の人だったと思う。二人は何度も何度も僕たちのほうを見ながら、何かを話している。なにか日本語ではない言葉で、その頃の僕にはまったくな何語だか分らない言葉で。
僕はその時初めて、とても怖い気持ちになって早く家に帰りたくなった。
すると彼らは僕たちをそのまま放置してどこかへ行ってしまった。
そして、僕たちを不思議に思ったデパートの店員さんに声をかけられ、警察から親へ連絡が行き、無事家に帰ることができたみたい。
彼らはいったい何の目的で僕らを連れ出したのだろう?
だだ、子供を連れまわす癖のある人だったのか、それとも人身売買、臓器売買のたぐいだったのか。だとしたら、なぜ僕らを放置して立ち去ったのか。
今となってはすべてが謎のままです。